Chasin' the Sound 5th

サックス(フルート)/ サウンド・デザイナー 栗原晋太郎のオフィシャルブログ

簡単には分からない問題

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あけましておめでとうございます。
今年は申年ということで、「さる者は追わず」の精神で古い考えこだわらず、新しいことにもどんどん挑戦していきたいと思います。今年もこのBlogをご贔屓に!

今年最初の更新は、簡単には分からない問題について書きたいと思います。

年末年始とくに好きなテレビ番組として、様々な年代のタレントがその審美眼を試され、あまつさえ格付けされてしまう某番組があります。
もちろん今年も見ました。
出題される問題には、カテゴリーとして“味”、“音”、“美”などが代表的な所として存在します。

“味”に関しては、テレビでは感じることが出来るわけもなく、ただひたすら超高級食材を見せつけられるという楽しい苦行があるのみです。

“美”に関しては今年は昨年に続き、一億円の盆栽を見分けるというものでした。
盆栽や絵などは、その作者が完成と判断したところでその価値が決まるので、光の加減や置かれているシチュエーションという要素はあるものの基本的には価値は固定されていると考えられます。
その点では問題は作りやすいんじゃないでしょうか。

問題は“音”です。
今回は超高級楽器の聞き分けと、2つの吹奏楽団のうちどちらがプロかという演奏の聞き分けがありました。
楽器の聞き分けに関しては、同じプレイヤーが高いのと安いのを同じ曲で演奏するという方法でしたので、割りとフェアーに違いが分かりました。
違うということさえわかれば、後は経験値の問題だと思う人が多いでしょう。
でもここには好みというハードルがあります。
高い方を当てるのが目的なんですが、普通は自分が好きだと思った方をあげてしまうでしょう。
これはハッキリ言って責められない点だと思うんですよね。
弘法筆を択ばずよろしく、上手い人はそれぞれの楽器でそれぞれの良い音を引き出しながら演奏するものです。
その意味では問題としては問題が多いでしょうね。
僕は当てましたけどね(キリッ)。

次は演奏のき聞き分け。
同じ曲をプロの楽団とアマチュアの楽団に演奏させ、どちらが良かったかという聞き分けです。
テレビの電波越しなので、細かいニュアンスまで聞き取るのは至難の業ですが、ハッキリと違いのわかるものではありませんでした。
まぁ、出題者もそう判断したから問題として使われてるんですけどね…。

そう判断された時点で、プロはもう切ないですよね。
ハッキリとした違いを提供出来ないのだとしたら、なんかもう存在理由が微妙になってきます。

判断に迷ったということは、どちらも良いかどちらも悪いと判断されたということになります。
正解の作品(高価だったり質が高かったりする方)には、少なくとも回答者にとっては、どちらにしても価値が無い、または薄いという評価になっちゃいます。
これはアーチストに失礼なのか、違いを示せなかった演者側がを責められるべきなのか。
一番失礼なのは、この問題の出題者なんじゃないかと。

世の中には、ある程度の経験を積まないと分からない世界があります。
例えば、ジャズのアドリブ演奏を聞いて、全く聞いたことがない素人であれば、その演奏が良かったのか悪かったのか判断できないでしょう。
でも、経験を積めば分かる。
囲碁や将棋なんかも、経験が無ければ盤面のドラマにはまったく気付くこともない。
そういう芸術というのは実際にたくさんあるし、それに真摯に関わる者は、素人の目線にまで下がることはなかなか出来ない。
だとすれば、このクイズは初めから意味が無いと断ぜざる負えない。

ミュージシャン、プロデューサーの鈴木惣一朗さんがラジオで興味深い発言をしていました。
あるレコードを聴いた時に直ぐに良さが理解できなかった。
これは理解できない自分が悪いんだからと、同じ一曲をテープに繰り返し録音し聴き続けたそうです。
そうすると、だんだんと良さが見えてきた。
そうやってすべての曲を潰していって、最終的にそのアルバムを大好きになったと。
つまり、そのアルバムを乗り越えた。
修行ですよ。

簡単には分からない良さってあるんですよね。

この番組は単純に出演者の特定のジャンルでの勉強不足をあざ笑う番組ということになっちゃうんですよね。
まぁ、それが面白いんですけどね。

あっ、吹奏楽の聞き分け問題、僕ははずしました。^_^;
来年も必ず見ます。