Chasin' the Sound 5th

サックス(フルート)/ サウンド・デザイナー 栗原晋太郎のオフィシャルブログ

違いの分からない男

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サックスのマウスピースの話。
ぼくは最近、長年の相棒であるOttolink Metal NY 8☆を置きました。
そして、Drakeというアメリカのマウスピース職人に手によるマウスピースに変更し、喜々として使用しております。
ものすごく気に入ってるからそれ自体には何の問題もないんです。
でもね、自分から言わないとだれも気付いてはくれないんです。
「弘法筆を選ばずだね」とか言って違いを認識できなかった責任を無かった事にする人が大量発生します。(笑)

自分としては、メタルからの大転換ですよ、一世一代の。
しかもこれまでで最大のティップオープニング。(マウスピースとリード、互いの先端の距離。これが違うと吹き味は相当変わります。ちなみに今のには9Lと書いてあります。)
でもね、つぎの動画を見て理解したんです。
さぁ、聴いて下さい。

www.youtube.com

あっ、これはどういうことだ?
演奏者である自分にも、マウスピースを変えたことによる音の違いが分からない…。
多分、この動画の意図としては、マウスピース選びの参考にして下さい的なことなんでしょう。

大量生産品は、人気があっても製品ごとのばらつきは避けられません。
厳密な選定を(またはリフェイスと呼ばれる微調整を)必要とします。
なので、僕の使っているDrake(ドレイク)のような、職人の手仕事によるマウスピースが珍重されるのです。
個体差はほぼありませんからね。

でもね、

この動画の演奏者くらいのレベルになると、どんなマウスピースでも同じ音が出てきているわけですよ、実際。
違いなんてハッキリとは認識できない。

ものすごく以前になりますが、新大久保のとあるお店の試奏室で、かの有名な渡◯貞夫さんが演奏されているところに遭遇しました。
そしてお店の人の話で、これまた有名な伊◯たけしさんというサックスプレイヤーと、いま演奏されている方が同じ場所に居合わせたことがあるというエピソードを聴きました。
そして、互いのマウスピースを交換して演奏されたんですって。(ものすごく昔の話ですよ、念のため。)
驚くほどスタイルの違う二人で、使用していたマウスピースも真逆な傾向を持っている物でした、が!
出てきた音は、本人それぞれの音だったそうです。
客観的には違いは感じられなかったといいます。

話戻って、動画の彼を擁護するつもりではありませんが、吹き手本人にだけは、ものすごく明確な違いが存在していることは間違いありません。
この動画を作ろうと思ったのだって、明確な違いを感じたからでしょう。
その意味で、一般公開されたこの動画の存在意義は殆ど無いと言っていいでしょうね。
笑っちゃうくらいに違いがありませんから。
いいから、この中で一番安いの使っとけよ。
いい音だよ、君は、間違いなく。

この動画の演奏者には何の面識もありませんが、僕もこの記事を書かせてもらったので自分の音の違いを聴いてもらおうと思います。
はいどうぞ。

www.youtube.com

違いが分かりましたか?
もし分からなくても僕になにか言わないでくださいね。
気持ちよく演奏できる事が大事なんですから。

プレイヤーそれぞれが持っている音は、サックスに関しては唯一無二です。
マウスピースごときを変えたくらいでは変化も起こらないんでしょう。
客観的には。
あくまで、客観ですよ。それは…。

Kamasi!

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このライブがやばい。

www.youtube.com超大編成のバンドをしたがえて、1曲目からとんでもない高みに上り詰めている。
この2016年にして、コルトレーンが乗り移った様な、いやそれを超えて行かんとする覚悟が聴こえる。
これはすごい。

Kamasi Washington。
Flying LotusとかKendrick Lamarなんかのアルバムにも参加するテナープレイヤーで作曲家。
このライブは一番新しい彼のアルバムのリリースパーティーだそうです。
このアルバムの音をそのままライブでやろうなんて贅沢過ぎる。
昔、パット・メセニーのSecret Storyのライブを見た時にもあんな音、ライブでどうやって再現するんだろうと思ったけど、その時以来の感覚。

テナープレイヤーとしては。コルトレーン直系のハードブロータイプ。
新しいアプローチでどうのこうのということではなく、スピリチュアルに吹ききる所が気持ちいい。
このライブでもかなりのハイテンションなプレイを聴かせるが、決して完全にフリーキーに陥ることはなく、どこかコントロールされている感じが現代的。
81年生まれだって。若いなぁ。

刺激受けまくりますね、こういうの見させられると。
久々の見ないで死ねるか系映像です。

生きたかった明日

 

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サックスを趣味として楽しむ人たちは、すぐに止める人はとても少ないのです。
それは第一に楽器の値段が高いので、よっぽどのお金持ちを除いて1度買ったら、もったいなくて止めにくいというのがあるでしょう。
逆に楽器を買うほどの情熱のある人が習いに来るとも言えます。

僕の生徒さんは皆さん、喜々としてレッスンにやってきます。
楽器を吹くことが唯一のストレス解消なのだとおっしゃる方も少なくない。
月に何度か僕のレッスンを受け、忙しい時は練習が出来ないこともありますが、ともかく少しずつ、少しずつ上達していく。
一足飛びに上手くなることは無いという事は、レッスンを初めて早々に皆さん気付かれます。
でも、続けていれば必ず上手くなる。

そんなポジティブなコミニュケーションを取っていく中で一人のテレビ番組制作関係のお仕事をされている生徒さんに出会いました。
仕事が忙しく、予定を決めるのがいつも大変そうでしたが、やる気は満々で、素直にこちらのアドバイスを聞いてくれる方でした。
豪快に大きな音で吹いてくれる気持ちの良いサウンドを持った方でした。

ある時、彼は一度だけレッスンをすっぽかしました。
こちらがすっぽかしたと思っていたに過ぎなかったのですが…。
とにかく、時間になっても現れない。
係の方が電話をかけても、誰も出ない。
仕方なく、次の生徒さんを待つことになりました。

そして、さらに1〜2週間がたちました。
いつもの係の方が突然。

「○○さんのお父様から連絡がありまして、」
「はぁ、お父さんですか。」
「そうです。えっと、なんというか、○○さん亡くなられたそうです。」
「※△↓♂仝★§瀑爆縛獏!!!!!!!!!!!!!!」

まだ若い命の灯が、そっと消された。

原因はなんなのか分かりません。
遺族の方もそこまで説明する義務はないでしょう。
でもとにかく、彼は亡くなってしまった。
聞いたとたん、震えました。
短い付き合いでしたが、音楽を通しての心の交流は確かにあったのです。
レッスンで生み出される音楽の欠片を共有していた。
短くても、そこに音楽が内在してさえいれば、忘れえぬ思い出になり得るのです。
その意味で、彼の死は音楽の懐の深さと生命の有限性を僕に教えてくれました。
そしてネットで以前に見かけた、この言葉を思い出しました。

「君が死にたいといった今日は、昨日死んだ奴が死ぬほど生きたかった明日なんだ。」

僕はね、「彼の分まで生きる」なんて言うつもりはないです。
でも、今日という日が特別なんだと思って生きていきたい。
今日も音を出せる幸せを噛み締めたい。

彼の分も僕は、音なら出せそうなので…。

合掌。

 

6/1(水)銀座The Deep にて初共演ピアノの田村衆記さんとDuoライブです。
栗原晋太郎(t.sax)  田村衆記(p)

The Deep - Jazz & Soul Bar 銀座

中央区銀座6-3-12 数寄屋ビル4階(1階ドトール)
03-3571-9277
The Deep - Jazz & Soul Bar 銀座
Music Charge ¥2,800
Table Charge ¥500
※2ドリンクorフード以上のオーダーをお願いします。
Open 19:00
Live time
1st 19:30〜 / 2nd 21:00〜 / 3rd 22:30〜 (各45分程度)