Chasin' the Sound 5th

サックス(フルート)/ サウンド・デザイナー 栗原晋太郎のオフィシャルブログ

表現と音色

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パソコンで音楽を作っています。
パソコンにDAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれるソフトを入れて、USBでキーボード(鍵盤)をつなぎ、せっせと音楽を作ります。
ある時、自宅にピアニストを招いて、パソコンにつながったキーボードでレコーディングを行いました。
そして重大な気付きがありました。

表現力の方が音色よりも大切だということです。

パソコンへの負荷を最小限にするために、うちにあるソフトウェア音源の中でも比較的軽い音色で弾いてもらったんです。
リアルタイム処理が必要なレコーディングという作業ではトラブルを減らす意味でよくある判断です。
僕はこの音色を全然気に入っていませんが、ともかく弾いてもらいました。
ピアニストにとってみれば、これほど劣悪な環境もそうそう無いでしょう。
しかし、善良な僕の友人は素晴らしいプレイをしてくれました。

その演奏は本当に素晴らしかった。
MIDIと呼ばれるデータを残してもらい、音色の変更は後からいくらでも可能です。
リアルタイムでの処理がなくなれば、負荷の高い音色も選べるのですが、そのプレイは音色の壁をものともしませんでした。
彼の表現力は音色によって削がれるということがなかったのです!

ピアノによる演奏ってどんな要素があるでしょう。

1.強弱
2.音を出すタイミング
3.音を止めるタイミング

物理現象としてはこれ以外にはありません。
これに音楽家は魂を乗せる事になります。

サックスの様にピアニストは自分の楽器を常に現場に持っていいけるわけではありません。
当然悪い楽器にあたってしまうこともあるでしょう。
しかし、彼らは与えられた環境で最高の演奏が出来るように自分自身を調整していきます。
それがパソコンという環境であったとしてもです。

レイ・ハラカミさんという音楽家がおりました。
彼は96年発売のSC88proというローランド製の本当にベーシックな何でもないシンセサイザーのみで制作をしていました。
当時からしても、プロのミュージシャンがメインで使うような楽器ではありません。
しかし、彼の作る音楽は本当に美しい。
初めて彼の音楽に触れたとき、ちょっと稲妻がはしる感覚がありました。
機材について知ったのはその後ですので、その時の驚きは忘れられません。

表現と音色。
音色が大して良くなくても、弾き手、作り手の表現力でいい音に聞こえる。
いや、良い音楽になる。
ミュージシャンは皆、良い音楽を目指しているはずですから表現力を最優先するのは自明の理。

与えられた環境で何ができるのか、まずそこから考えた方が早いかもしれません。