Chasin' the Sound 5th

サックス(フルート)/ サウンド・デザイナー 栗原晋太郎のオフィシャルブログ

アナログ・シンドローム

インターネットは音楽の流通を劇的に変化させました。 iTunesとか携帯の着歌とか。 CDショップは閉店の憂き目を見ることになってます。 しかし先日、面白いコラムを読みました。 ラジオが全世界的に普及した時、同じような現象が起こったらしいのです。 当時音楽を伝えるメディアの最高峰はレコードでした。 そんな中、突如現れたラジオ。 誰もが、なんでレコードなんか買わなくちゃならないの?と思ったわけです。 聞きたい音楽はすべてここ(ラジオ)から流れてくるのに。 でも4~5年もするとレコードの売上はもとに戻ったらしいのです。 これは、レコードから流れる音楽とラジオから流れるものとの間に決定的な差異があったからに他なりません。 いつでも好きな時に聞けるという利便性。 ジャケットやライナーの持つ付加価値。 そして何よりも音質。 今、取り沙汰されるのはCDと配信、つまりデータとしての音楽におけるせめぎ合いなんだろうと思います。 そしてそこにもう一つアナログレコードという未だ生き続ける媒体も食い込んでいきます。 CDという存在は、最も中途半端なのかもしれません。 利便性は増しました。 曲順を支配して、好きなものだけ頭出しできる様になりました。 しかし、ジャケットなどの付加価値は減りました。 CDのサイズとLPレコードのサイズでは所有の喜びに差ができて当然です。 そして曲順によるストーリー性も失いました。 今の若い人に「B面の2曲目っぽい曲」とか言っても絶対に伝わりません。 音質はどうか。 CDより圧縮されたMP3。 これはもう結論が出ていますが、一般ユーザーにとっては気にならないレベルなんです。 気にならないなら、より利便性の高いMP3に移行するのは当然。 CDの立場はどんどんなくなっていきます。 そしてアナログレコードの音質はまた別の意味でCDにはない魅力がある。 これは聞けばわかるとしか言いようが無いですが…(ジャンルや個人的趣味、主観にもよります。) アナログ好きの人は言います。 かければ必ず減って行くレコードの溝には、生き物のような儚さがあると。 そして利便性のなさが、逆に音楽を聴くことの大切さにつながるんだと。 ビニールのケースからジャケットを取り出し、さらにレコード盤から注意深くホコリを取り除く。 回転数の調整を済ませたレコードプレーヤーに盤をのせ、レコード針を丁寧にかける。 このとき発生するノイズには、これからお気に入りの音楽がはじまるという期待感で心が踊る。 お気に入りのリスニングポイントに腰をおろせば、ウォーミングアップを済ませたアンプを通してスピーカーから音が溢れる… こんなに大切に音楽を聴いたら、その音楽の魅力は何倍にもなるでしょう。 だから、アナログがいいんだと。 結果、MP3のようなデータとしての音楽とアナログレコードが残り、CDを含めた他の媒体は消えてゆくんじゃないか。 便利なら徹底的に便利な方がいい。 しかし、不便な物に魅力があったら、便利なものと競合せずに残っていくのかもしれない。 「不便だけどいい」っていうものが、これからのキーワードなのかもしれません。